杉浦: 一口飲んで最初に感じたのは、華やかさですね。
青リンゴのような爽やかな香りがありました。
中川: もともと秋津穂は、お酒にすると青リンゴや洋梨の香りがするんです。
それに、搾りたてなんで炭酸ガスがしっかり残っていて、
その炭酸ガスが弾けるときにより香りが立つんです。
杉浦: それに、お酒自体の色も味も透明感がある。精米歩合が80%なのに、
吟醸酒のような雰囲気がありますね。
中川:そうですね。今回は秋津穂の精米歩合65%に近い味と香りがします。
それは特別栽培米というのが影響していると思います。
前にお話ししたように、化学肥料を使用するとお米に含まれる
窒素の量が増えて、それが複雑味につながると考えられます。
杉浦さんのお米は窒素が増えすぎない有機肥料のみですし、
肥料の量自体も控えていらっしゃるので、より複雑味を感じにくいのかなと。
あと、苦味も今回のお酒の大切なキーですね。
もともと杉浦さんのお米で作ったお酒は綺麗な味になるんですが、
そこに秋津穂特有の苦味が奥行きを加えていて。
苦味そのものもすごく綺麗で、上手に活かせたと思うんです。
杉浦: 苦味というと、あまり日本酒のイメージにありませんが。
中川: 秋津穂の特徴の一つに、苦味があるんです。
バランスの取れた苦味も美味しさの一つです。なので今回はちょっと甘めにして、
苦味とのバランスを取りました。それによって、かえって甘みや酸味を全面に
感じられるようになり、適度な苦味があってもバランス良く飲める味になりました。
杉浦: 今回のお酒は狙った通りの出来ですか?
中川: 狙った以上ですね。
もちろん苦味はあるんですけど、それを気にせず、
違和感なく味の要素の一つとしてバランスが取れている良い状態です。
複雑味がしっかりしていながら、それが出過ぎてない。
それに、今回の杉浦農園のお酒は様々な表情の味わいを
長く楽しんでいただけると思います。
炭酸ガスが抜けてまろやかになることはあると思うんですけど、
その味わいの変化を楽しんで欲しいと思います。
中川: ここまでのお酒ができたのは、もちろんお米のポテンシャルだと思います。
それに醸造がうまくいったというのもあります。
相乗効果で美味しいお酒に仕上がりましたね。
そもそも秋津穂は溶けにくくお酒にするのが難しい品種です。
日本酒はビールなどと違い、醸造の際に糖化と発酵を同時に行うんですが、
溶けにくいお米だとこのバランスを取るのが難しい。
麹の力を強めたり、お米の給水量を増やしたりして、
出来上がりの味をコントロールします。
油長酒造では溶けにくい品種を、
さらに扱いの難しい低精白米の状態で使うことが多く、
ノウハウの蓄積があったことが良かったですね。
杉浦: 今回は真中採りとのセットになっていますが。
中川: 真中採りっていうのは無加圧で搾った部分だけを集めたお酒です。
搾る際に加圧しないので、タッチが柔らかく、
優しい甘味とか酸味のフレッシュな味わいを感じられるのが特徴です。
真中採りは量がかなり少ないので、2種類を飲み比べできるのは貴重ですね。
今回は特に工夫して造った特別なお酒なので、
お米、そしてお酒の魅力を味わい尽くして欲しいと思って
真中採りもセットで出すことにしました。
杉浦: 酒の酒粕もついてますし、まさに余すことなく、ですね。
今回のお酒について、それぞれお好きな料理と合わせて
楽しんでもらうのが一番ですが、
私がぜひ試して欲しいと思うのは新鮮な野菜。
味付けも調理法もシンプルに、焼いたり蒸したりして、
塩や味噌をつけるぐらいの。
せっかくの特別栽培米なので、雑味のない自然なもの、
素材の美味しさを堪能できるものと合わせてもらえたら嬉しいです。
自然の美味しさを丸ごと感じて欲しいですね。
中川: お酒を造る側からすると、ただお米をお酒にしているだけじゃなくて、
それぞれのお米によって異なる魅力や
表現したい姿があるので、それを伝えたいです。
それに、精米歩合も85%、90%と挑戦していきたいですね。
特に秋津穂に関しては、お米をフルに生かしたいと思うので。
そして、一口飲んだ瞬間に美味しいって言えるお酒にしたい。
後から精米歩合を聞いてびっくりするぐらいのお酒を作りたいですね。
そういうお酒を造るには、やっぱり杉浦さんのお米でないと。
杉浦: 今回再現性というのをすごく意識しました。
今年はとても良いお米ができたので、
今の作り方を踏襲しながら続けていきたいです。
1つのお米をずっと追っかけていくお酒ってなかなかないじゃないですか。
お米を作る上でもいい実験になったというか、研究材料になりましたね。
中川:私はできるだけ磨かずに、美味しいお酒を造る技術を確立したいですね。
お酒づくりをしたくて油長酒造に入りましたが、
実は入社するまでは農家さんや酒屋さんと関わる機会がなくて、
あまり意識もしてなかったんです。
でも働きだして、農家さんや酒屋さんとお話をするようになり、
特にこの農家酒屋でお米作りに関わったり、お酒への姿勢に触れるうちに、
収穫されたお米を最大限に生かしたお酒を造って届けたいという想いが強くなりました。
この取り組みが継続できるように、もっとたくさんの人に知ってもらって、
コミュニティを広げていきたいです。それに、田んぼでの作業には、
酒屋さんや風の森のファンの方も参加していただいてるんです。
そういう方と一緒にお米を作り、収穫を喜ぶという経験は、
自分にとってもパワーになっています。
杉浦: このプロジェクトは、農家を続けていく、
里山を維持してくというのが大きな目標だったんですが、
実は自分自身も農家酒屋が実際に立ち上がるまでは実感が湧かなくて。
でもサイトが出来上がってから、お客さんの反応を見たり、
ライブ配信をしたりとかして、これはすごいなと。
農家酒屋の取り組みを通して、お酒以外、
それこそ里山保全活動の発信ができると感じました。
また、中川さんは農家と関わることがなかったということでしたが、
反対に私は酒蔵と関わることがなかったので、
お酒のことをもっと勉強してみたくなりました。
冬は蔵人として働きたぐらい(笑)。
私自身も、このプロジェクトがこれからどうなっていくのか、すごく楽しみにしています。