中川: 搾りたての味わいはいかがですか?
杉浦: 香りが非常に瑞々しい果物の香りがしますね!白いブドウの様な香りがします。
そして、今年は昨年に比べてややドライに感じられます。
中川: 実は醪経過の途中で酒質設計の味わいを少しドライに変更しました。
秋津穂はお酒を造った時に特有の苦味が出やすく、
今回の精米歩合は昨年より低精白の85%精米ということもあり、
苦味が目立ちすぎてしまう可能性を危惧し、元々はもう少し甘めの設計を予定していました。
ですが、醪経過の途中で分析用のサンプルの味を確認していると、苦味がかなり少ないと感じ、
せっかくならより味わいの透明感を表現するために、ややドライな酒質に変更しました。
杉浦: 確かに。苦味は少しありますが、目立ち過ぎず味わいの一つとしてまとまっているように感じます。
中川: 85%精米の秋津穂のお酒は、私たちも初めてのチャレンジでしたが、昨年までに引き続いて、
この味わいの綺麗さは、杉浦さんの特別栽培米ならではだと感じます。
杉浦: 慣行農法の秋津穂との酒質としての違いは、どういうところにありますか?
中川: 私たちも慣行農法の秋津穂は80%精米で何回かお酒を仕込んでいますが、
やはり苦味が特徴的に感じられます。
香りについても、今回の特別栽培米のお酒は杉浦さんのおっしゃる通り、
白いブドウや洋梨といった青い果実の香りが多く感じられます。
秋津穂でいうと精米歩合が65%精米に近い香りですね。
慣行農法の秋津穂で仕込んだ80%精米であると、バナナやメロンといったもう少し甘く、
芳醇な香りが感じられることが多いです。
杉浦: 今回、85%精米という低精白での酒造りは苦労されたのではないですか?
中川: 秋津穂は飯米であるため、酒米よりは硬く、溶けにくい品種です。
低精白にすることで、よりお米のエネルギーが多くなり、酵母が活性化されて発酵が強くなり、
糖化とのバランスが取りにくく、溶けにくくなる傾向になります。
今回は、昨年に引き続き、麹の量を増やしたり、お米の吸水量を増やすなどして溶けやすくすることを意識しました。
杉浦: なるほど。昨年までのノウハウの蓄積を生かしたという事ですね。
中川: そうです。また、今年はお米の洗米に「ウルトラファインバブル」という水の中に
1マイクロメートル未満の泡を溶け込ませた特殊な水を使用しました。
油長酒造の特別な技術です。
お米の表面に存在する細かな溝に残っている糠などを、小さな泡粒によってしっかりと洗い流し、
低精白のお米の持つ過剰なエネルギーを減らす狙いです。
今までの風の森の低精白米の仕込みでは一部使用していましたが、
今年、杉浦さんのお米の仕込みでは初めて用いました。
杉浦: 洗米によって、出来上がるお酒への影響もあるのですね。
中川: そうなんです。私たちも、数年前よりお米の洗米をしっかりと行う事で、
お米の違いによる香りや味わいが、より一層お酒に現れることに気づきました。
今回のお酒でも味わいや香りの透明感の違いが、よりはっきりと感じられると思います。
杉浦: 今年は慣行農法の田んぼと比較して、土壌と玄米の分析も行いましたね。
中川: はい。それぞれ分析は行いましたが、慣行農法の物との違いは特に数値上の大きな違いは見られませんでした。
杉浦: そうすると、この特別栽培米で造る秋津穂のお酒の味わいの違いは、何によるものなのでしょうか?
中川: 玄米や土壌での分析数値で大きな違いは無くとも、実際お酒を造ると味わいや香りの違いが、
人間の舌の上では確かに感じられますよね。
科学では計り知れないものがある、それがよりこのお酒の魅力に繋がっていると思います。
杉浦: なるほど。
中川: もしかすると、今回は分析していませんが、
さらにアミノ酸の種類や量を分析すると違いが出る可能性があるかもしれません。
お酒にはお米や麹由来のアミノ酸が数種類含まれています。
アミノ酸と聞くと、旨味を感じるグルタミン酸を想像されるかもしれませんが、
含まれているアミノ酸の種類によっては甘味や苦味、
酸味といったお酒の味わいに関与しているものがあります。
秋津穂で造ったお酒はお話ししていた通り、特に苦味を感じやすいので、
苦味を呈するアミノ酸の量が多いのではないかと思います。
特別栽培米の秋津穂では苦味を感じにくいので、その数値が少ないのかしれません。
この違いも一度調べてみたいと思っています。
杉浦: アミノ酸の違いは確かに特徴が出て面白そうですね。
これまで、実際にお酒に含まれる種類ごとのアミノ酸の数値を分析されたことはありますか?
中川: いえ、実際に行ったことはまだ有りません。
私たちが多く使用させて頂いている、秋津穂の特徴をつかむためにも、行ってみたいですね。
また、今回は田んぼの土壌の分析をお米の収穫時期の直前に行いました。
この分析のタイミングも、もっと違いの出るタイミングを考えてみても良いかもしれません。
杉浦: そうですね。
米作りが終わってしまっているタイミングに今回は行ったので、違いが出にくいと思います。
特に水田は水を張るために養分が抜けていってしまうので、
畑と比較すると最終的な養分が残りにくい条件にあります。
中川: なるほど。土づくりを行ったタイミングでの分析が良いのでしょうか。
杉浦: 土づくりを行って、稲を植えてしばらくしてから、
土壌の土と養分を吸収した稲も合わせて定点観測的に分析することで何か違いが出るかもしれません。
水を張ることでどれだけ養分が抜けていってしまうのか、
また、稲がどれだけ吸収しているのかを見ることで違いが出るかもしれません。
中川: 科学的な分析も行うことで、よりお米もお酒造りも再現性が取れるようになっていきたいですね。
来年以降も、低精白でのお酒造りにチャレンジして行きたいと思います。
今年のお酒も十分そう感じられると思いますが、精米歩合を聞いて、あっと驚くような酒質のお酒を造りたいと思います。